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010_止まらない申請却下──「感情論で動く上司」に部下はどう立ち向かうか

  • 2025/06/09

「また却下か…」

デスクに戻った佐藤さん(仮名・40代)は、無力感に肩を落とした。技術部門で長年働く彼は、現場の改善提案を通じてチームの業務効率化を図る役割を担っていた。だがここ数カ月、ある上司の“不可解な判断”により、合理的な申請が次々に却下されていた。

その上司・田村部長(仮名)は、形式上は「意見には耳を傾ける」姿勢をとっていた。しかし、実際には提案内容ではなく、「気に入っているか否か」「誰が言っているか」によって判断が揺れていた。特に、佐藤さんのように年次の高い社員が自発的に動くことに対しては、妙な警戒心を示していた。

■申請が通らない→作業遅延→叱責の悪循環

たとえば、ある日佐藤さんは老朽化した検査機器の更新申請を行った。現場からの声もあり、性能的にも限界だった。しかし返ってきたのは「今はタイミングではない」という感情的なひと言。理由の明確な説明はなかった。

仕方なくそのまま使い続けた結果、故障が発生し納期に遅れが出た。すると、同じ部長から「なぜ対策を講じなかったのか!」と厳しい叱責を受けた。

「申請が通らなかったからです」と口に出すことはできず、ただうつむいて謝るしかなかった。

これは一度きりではない。何度も繰り返されたこの流れに、佐藤さんは次第に「自分が間違っているのだろうか」「上司の言う通りに従うしかないのか」と自信を失い始めていた。

■記録が“盾”になる

ある日、信頼できる同僚から言われたひと言が、佐藤さんの意識を変えた。

「まず記録を残してみては?」

以来、佐藤さんはすべての申請内容・却下理由・業務への影響を詳細に記録しはじめた。メールでのやり取りはフォルダに整理し、口頭で言われた言葉も日報に残した。

すると、あるパターンが見えてきた。

  • 提案は妥当で、他部署でも採用されている内容
  • それでも却下された理由が曖昧、または「気に食わない」など感情的
  • その後の業務影響と、叱責の内容

「これはおかしい。私が悪いのではない」

記録が“事実”として彼の背中を押し始めていた。

■伝え方を変える、言葉にロジックを

次に佐藤さんは、「伝え方」にも工夫を加えた。これまでのように「こうしたい」ではなく、「この申請が通らなければ〇〇という損失が出ます」と、数字と実例を交えて説明した。

さらに、可能な限り他部署のデータや事例を引用し、「自分の意見ではなく“客観的な提案”」として示した。

それでも却下される場合は、「本件については、記録として残しておきますので、今後の業務に影響があれば追って報告します」と静かに伝えた。

直接的な対立は避けつつ、記録という“盾”で身を守る術を身につけたのだ。

■味方はいる。会社には“仕組み”もある

やがて、記録の蓄積が社内のハラスメント相談窓口への相談につながった。状況を整理した上で提出した文書は、第三者が見ても「理不尽な対応の繰り返し」であることが一目瞭然だった。

組織は完全ではない。理不尽な上司もいる。しかし、企業には「通報制度」や「人事部門」がある。味方になってくれる人もいる。

佐藤さんの申請は、その後改善され、同じ部長による一方的な却下は明らかに減った。彼は「戦った」のではない。「守りながら、少しずつ動かした」のだ。

■感情に支配される職場に、論理と記録を

誰もが理不尽な上司と向き合う可能性がある。怒りでぶつかれば潰され、何も言わなければ心がすり減る。

大切なのは、「感情で返さず、論理と記録で動く」こと。

感情論で申請を却下する上司に、論理で対応する。叱責されたら、「なぜそうなったのか」を証拠と共に冷静に残す。

それは自己防衛であり、組織の在り方を正す一歩でもある。

あなたの働く職場に、あなたを守る人がいますように。そして、あなた自身があなたを守れる力を、忘れないでください。